赤い実が有名な南天が、花も美しいことは、あまり知られていない。よく街角にも生えているはずなのに、目につかない。夏に咲かせる小さな花は、極淡い黄色をしている。白に限りなく近い色だ。柔らかく温かい印象を受ける。夏に舞い降りてきた雪のようにも見える。細い枝が花の重みでしなる所も、雪が積もっているように感じられる。この南天は、雪の降る季節に大活躍をするのだ。
風邪が引きやすくなる冬、秋に実った南天の実を食べると、咳が止まるという。昔から伝わる知恵の一つだ。生で食べることもあるし、乾燥させたものを煎じることもある。薬効は実だけではない。葉には殺菌効果がある。おせち料理やお赤飯の上に南天の葉が置いてあるのは、腐敗防止にも役立っている。ただの飾りだけではないのだ。他は、茎や葉を煎じて、痛み止めや滋養強壮にも使われることもある。
薬効だけではなく、厄除けとして庭先や鬼門方向に植えられることも多い。ニンニクが東西関わらず厄除けになっていることから判るように、薬効が強いものは、悪いものから守ってくれると信じられている。実を食べても煎じても良し、葉も茎も根も、余すことなく薬として使用することが出来る南天は、昔の人にとっては、まさしく万能の神に見えただろう。
お正月の飾りつけに、福寿草と南天を合わせるものがある。黄色と赤が美しく、とてもおめでたい感じがして、新年ムードが盛り上がる。これは、見た目だけで組み合わされたのではなく、南天は難を転ずるとされる縁起物で、福寿草と二つ並べることにより、「災転じて福と成す」という意味が込められている。こう聞くと、益々南天への有り難味が増えてくるような気がする。
(コラムニスト 旭堂花鱗/絵:吉田たつちか)2006.1