(文:食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ)/絵:そねたあゆみ)2017-1
●一流料理人が語るジャンクフードやコンビニ食の恐ろしさ
つい昨日のことです。私はとある名店の和食料理長でもあり、私の親しい友人でもあるK氏と酒食を共にしていました。そのときK氏はつぶやくように言ったのです。
「ねえ先生(K氏は私のこと先生と呼びます)、コンビニって怖ろしいですね」
「どういうことです?」
「私は、昔からコンビニ弁当とかが口に合わんかったとです。でも上京して1人暮らしをするようになってから、たま~に食べるようになったとですよ。そうしているうちに抵抗がなくなり、最近では美味しいとさえ思うようになったとです」
さらにK氏はこんなことも言いました。
「以前は、カップ麺はまずくて食べられんでした。いまでもやはり不味く感じるんですが、昔ほどではありません。ぼくらは洗脳されてるのでしょうか?」
こういうのはK氏だけではなく、名料理人として全国に知られており、ある料亭協会の理事長まで勤めたことがあるH氏も同様のことを言っていた記憶があります。
「一口目は美味しいのよ、でも、二口三口と食べていくと、やっぱり深みがないというか……」
まあ当たり前です。彼らは毎日高級食材を使った料理をまかないとして食べているのですから、一般人と舌が違います。ただ彼らが怖れているのは、本物の料理や味が、家庭の味がコンビニ食やインスタント食品にとって代わられることなのです。
●コンビニ食・インスタント食が当たり前の現代人
K氏はいいます。
「若い料理人を育てるためには、本物の料理とそうでないものを食べ比べさせることです。ほら、違うだろ、と」
最初はわからなくても、食べ比べをしているうちにだんだんと舌が肥えてくるのだとか、そんなK氏が我が家のホームパーティーに来てくれたとき、一緒にスーパーにいって、買い出しをしたときのこと。一流料理人を前にして
「めんどくさいからさ、冷凍食品やインスタントでごまかしちゃおうぜ」
と私が発案。二人でチャチャッと調理して、みんなと一緒に食べたとき、K氏がキョトンとした顔をしました。
「あれ、この冷凍食品、意外と美味しい……、店に出せるレベルじゃないとしても家庭だと十分かも……」
インスタントも冷凍も日進月歩の進化を続けていて、いまではプロもビックリの商品も少なくないようです。そして忙しいお母さんや独身者のために力になっているようです。
冷凍野菜や缶詰の野菜は、旬のときに新鮮なうちに冷凍や缶詰にしますから、価格も安定、意外にも新鮮。
●おふくろの味がなくなる……
便利な世の中です。洗濯も掃除も機械が人間の代わりをしてくれるようになりました。料理もインスタントや冷凍で十分美味しいものが食べられる。
でも一流の料理人たちが口をそろえていうのは「家庭の味が、おふくろの味が、本物の味が無くなっていくのではないか?」という不安です。
かくいう私自身、母親が忙しくおふくろの味といえば、あるメーカーのインスタントラーメンであったりします。
でも私は思うのです。インスタントでも冷凍でも、お母さんが心を込めて作った料理はおふくろの味なんじゃないかなと。食文化は日々変化します。
100年後200年後、インスタントや冷凍食品が、日本の伝統文化料理になっているのかも知れませんよ。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2017-01