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喧嘩のススメ

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(絵:吉田たつちか)

後期高齢者である家人が26年ぶりに始めたスナック、多くの人に持続できるか不安視されたが気が付けば一周年を無事迎えることができた。感染症の中で始めたが、飲食店を対象にした助成金のおかげも大きい。田舎のスナックの売上など知れたもので、過分の助成金額であった。コロナ禍が収まりそうもないので、再び、助成金をひそかに、期待している経営者も少なくないが、当面は国政選挙もないだろうから、期待は的外れだ。
 一周年を記念して「コロナ助成金還元キャンペーン」として、ボトル1本3,000円割引券を配したチラシを制作し、新聞折り込みにて配布した。4000円のウイスキーが1000円で、3500円の焼酎ボトルキープは500円(一人1本1回限り)で提供した。
 Aさんのボトルが空いたので、次は通常料金だというと、では、友人のボトルを出してほしいと嘆願する。キッパリ断ると、親友のだからいいと粘る。再度、断ると、怒って店を出ていってしまった。その後、店のボトル棚に「トラブル回避のため、理由の如何を問わず他人のキープボトルを提供することは出来ません。」と印刷した紙を貼った。
 スナックでのトラブルで多いのがボトルに関わるものだ。自分のボトルがまだ残っているはずだとか、量が少なくなっているのではないかとのクレームだ。先日も、リゾートマンションの住民で日頃から金持ち自慢をしていたWさんが、新たに入れたばかりの筈だがと、キープボトルの量が減っていることに怒っている。
 ママが、彼のお金にあやかろうとする取り巻きの一人である***さんたちがWさんのボトルを出してといわれたので、先日、出したというと、残った焼酎を捨てて新しく入れてという。理屈としてはWさんの言い分の方が正しい。本人の了解確認をせずに、他の人に供するのはだめだ。
 昔、小生が書いた本(車体整備工場経営の知恵と戦略(Ⅰ))にも似たような話題を紹介したことがある。「ヤクザやさんに学ぶ応対の秘訣」という章である。12の原則を提示している第4番めに「車を持って来た人以外には絶対にわたさない」とある。修理に出した親分の車を舎弟を名乗る人が引き取りに来たので、うっかり引きわたしてまったら、「俺の車はどうした、おれの車はどこにある」といわれ散々な目にあったという事例だ。車とキープボトルでは話の大きさが違いすぎるが、基本は同じだ。
 長引くコロナ禍の中で、外出もママならずストレスがたまっている輩が多いのか、最近、飲み処での喧嘩が多くなっている気がする。少しボケが入ってきて気持ちの抑制が出来なくなっている高齢者が多い。かくて、わが街のスナックで、出禁になる例が少なくない。その多くが些細な喧嘩だ。歳をとって幼児期に戻って来ているのかもしれない。
 喧嘩といえば、最近の子供は取っ組み合いの喧嘩などしないそうだ。それでよくストレスがたまらないものだと心配ではある。夫婦喧嘩が元気で長生きの秘訣だという識者もいる。スナックでの喧嘩も数か月すると何事もなかったように、再び通うようになるのが不思議だ。喧嘩してもいいがすぐに忘れるのがよろしい。特に夫婦喧嘩は翌朝には何事もなかったようにケロッとしているのがいい。

(ジャーナリスト 井上勝彦)2023-01

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