いまや野菜やお肉も工場で作られる時代なのです。
私たちは毎日のようにスーパーマーケットなどに行き、「今夜のおかずは何にしよう」と、いろいろな食材を手にします。
しかしその多くが「工場で生産した食べ物たち」であることにお気づきでしょうか?
工場で作られる野菜や畜産物は天候に左右されず、安定した供給が可能なため、食糧生産の新たな形として期待されているのです。
しかし、これらの生産方法にはメリットだけでなくデメリットもあります。本稿では、工場生産の歴史や現状、そして将来の課題について詳しく見ていきましょう。
工場で作られる野菜の歴史と発展
2023~2024年に起こった記録的な夏の猛暑のため、野菜やコメの値段が高騰しました。
人々は、気候にも暑さ寒さにも、季節にすら関係なく、確実に作物を消費者に届けるために20世紀になってから、食べ物の工場化を進めてきました。
そして、1990年代からLEDを利用した完全人工光型の植物工場が登場します。これにより、日照条件に関係なく、室内で安定して野菜を育てることが可能になりました。
また、水耕栽培やエアロポニックス(水や霧を使う栽培方法)などの技術も進化し、土を使わずに効率的に作物を育てることができるようになりました。
現在では、モヤシやキノコ類、レタスやハーブ、トマト、イチゴなどが植物工場で生産されています。
工場で作る肉や玉子の歴史と発展
畜産においても、工場生産の考え方は比較的古くから存在しています。産業革命以降、人口増加に伴い、効率的に動物を育てる方法が求められるようになりました。
20世紀初頭には、アメリカを中心に「工業化された畜産」が発展します。特にニワトリの飼育では、狭いスペースで大量に育てる「バタリーケージ」と呼ばれる方式が一般化しました。この方法により、一度に多くのにわとりを飼育し、短期間で肉や卵を生産することが可能になりました。
日本でも、戦後の食糧難を背景に畜産の工業化が進みました。高度経済成長期には、大規模な養鶏場や養豚場が増え、牛肉の大量生産も可能になったのです。
近年では、遺伝子改良や自動化技術の進化により、より効率的に畜産品を生産できるようになっています。
しかし、動物福祉の観点から批判もあり、より環境負荷の少ない方法への転換が求められています。
工場生産のメリット
工場で野菜や畜産品を生産することには、いくつかのメリットがあります。
・天候や季節の影響を受けず、一年中安定した生産が可能
・野菜の場合、害虫被害が少なく、農薬を使う必要が減る
・衛生管理がしやすい
・完全管理された環境下で育てるため、病気のリスクが低減などなど
次にお肉、つまり畜産においてはどうでしょう?
・感染症の予防に効果
・生産効率が高い
・限られたスペースで多くの食料を生産できるため、都市部での生産にも適しているなど
デメリットは何か?
一方で、工場生産にはいくつかの課題もあります。
・電力や化石燃料の依存度が高い
・植物工場ではLED照明や空調設備が必須であり、電力の消費が多くなる
・畜産工場では、エサの供給や温度管理に大量のエネルギーを使う
・そのため電気や石油の価格が上昇すれば、生産コストも直撃を受ける可能性 (ウクライナ戦争勃発などで、電気代やガソリン代の価格が上昇したように、世界で何かが起これば、作物が作れなくなる可能性がある)
・初期投資が高い
・特に完全管理型の植物工場や、大規模な畜産施設を運営するには、多額の設備投資が求められる
これからの食糧生産は、環境負荷を抑えながら持続可能な方法を模索する必要があります。工場で作られる野菜や畜産品がどのように進化していくのか、今後も注目していきたいですね。
(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究所)2025-03