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天然物信仰と食経験

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1201-01 消費者の中には、必要以上に化学合成品を毛嫌いする方もおられます。そのような方は、天然の食材や抽出物は全て安全であると過信する一方、化学合 成されたものについては過剰に危険視して徹底的に排除しようとする傾向があります。その様子はまるで宗教のようであり、「天然物信仰」と揶揄されています。

しかし、天然か合成かというだけで食品の安全性を判断するのは、余りにも短絡的です。食品の安全性を判断する上で最も重要なポイントとなるのは十分な食経験があるかないかということに尽きるのではないでしょうか。
天然物にもたくさんの毒性物質があります。よく知られているところで言えば、フグ毒、トリカブト、ジャガイモの芽、青梅などがそうですが、数え上げればき りがありません。しかし、これらの毒性物質も長い食経験の中から、どのくらい食べれば、あるいはどの部分を食べれば毒なのかが明らかにされ、上手く食生活に取り入れられて来ました。ふぐは肝臓や卵巣を食べない、トリカブトは弱毒化処理して漢方薬「附子(ブシ)」として利用、ジャガイモは芽を除く、青梅は梅干に加工して食べるなど、工夫すれば安全に食べることができます。
このように毒のある食材を安全に食べることができるようになったのも長年に亘る食経験の積み重ねによるものです。
一方、食経験の浅い食品ではアマメシバ事件のような食中毒事故も起りました。
アマメシバ事件とは、東南アジアの熱帯雨林地帯に生えるトウダイグサ科常緑低木アマメシバによる食中毒事故です。2003年に40代の女性がアマメシバの 粉末加工品を1日4回、計8gを130日間にわたって摂取した結果、閉塞性気管支炎を起こして入院しました。しかし、原産地の東南アジアでは、事故もなく 普通に食べられていたようです。なぜ現地では事故がなかったのかというと、煮て食べられていたことと(煮ることによって毒性物質が揮発あるいは無毒化され るものと解釈されています)、恐らくは長年の食経験でどれくらい食べると危険なのかがわかっていたからだと考えられています。台湾では生のままジュースで 飲んだことにより多数の患者と死者まで出すことになりました。日本では、粉末化して売られたために生や煮て食べるよりも過剰量を摂取し易い状況になってし まったことが原因のひとつであると考えられています。

最近は南米ブームで南米の薬用植物などが健 康食品としてよく日本に持ち込まれたりすることがあります。販売に先立って厚生労働省の食薬区分の審査を受けることになりますが、その際、判断材料の一つ として重要視されるのがやはり現地での食経験です。つまり、天然物だからというだけでは全く安全性の根拠にはならず、実際に毒性があるのかないのかは、これまでに食べて何も健康被害がなかったのかということで判断するのがもっとも確かだということです。
一方、化学合成品の安全性については、事前に動物試験などにより安全性が徹底的に検証されている分、食経験の浅い天然物よりもむしろ信頼できる面もありま す。もちろん、動物と人間では同じ成分に対して反応性が異なる場合もあり、動物実験での結果がそのまま当てはまらない場合も ありますから注意は必要です。また、化学合成品には合理的に設計されているという利点もあります。例えば、合成抗菌剤の場合幅広い細菌に効果(「抗菌スペ クトルが広い」といいます)があったり相対的に強い効果がありますが、天然抗菌剤の場合には抗菌スペクトルが狭かったり、効果の弱いものがあったりするので、場合によっては十分な抗菌力が発揮されずに食中毒が発生するということにもなりかねません。

  天然だからということだけで不用意に飛びつかず、また化学合成だからというだけで毛嫌いすることもなく、アンテナを張り巡らし、有用なものは上手く利用して行きたいものだと思います。
(医学博士 食品保健指導士 中本屋 幸永/絵:吉田あゆみ)
2012.01

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