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「提灯はまっすぐ下がる」の理に感嘆!

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11-07-5 先日、たまたま、つけていた車のラジオから福岡市出身の武田鉄矢さんの声が流れてきました。実は私は、この方は同郷ながら、あまり、好きではありませんで、そしてそれは、会ったことはないものの、氏の七光り的に光を甘受しようとするような姿勢が見え隠れしていた武田家の人々も同様でした。
で、聞くとも無しに聞いていると、傍らの女子アナが「武田さんは、実は、お姉さんが神戸で飲食業をやっておられたそうで、阪神・淡路大震災の時の被災者なんですよね」と前置きし、武田氏にその話を促したところ、氏はその姉が被災して福岡に帰って来た時の、母・イクさんと姉との会話について話し始めました。
うろ覚えですが、
「実は、姉は地震の半年ぐらい前に少しずつ貯めたお金が1億円貯まったと言って、1億円貯金パーティーというのをやったんですよ。それだけに震災で全て失ったのがショックだったんでしょうね。実家に帰ってきて、居間でぼそっと、『うち、もう、神戸から帰ってくるわ』と言うのを聞いて、風呂上がりだったかの母が怒るでもない、実にさらっとした語り口で、『商売人が帰って来てつまるもんね(ダメよ)』と言うんですよ・・・と。
すると、姉が「お母ちゃん、何も知らんからそんなこと言えるねん。うちの店、柱傾いてるねんで。のれんがかからへんねんで・・・」と言うと、母が「のれんがかからんなら提灯ば下げれば良かたい。提灯ならどこでん、まっすぐ下がろうが」と言うんですよ」・・・と。
「提灯ならまっすぐ下がる・・・」、この、当然といえば当然の理論に私は、思わず、「ほーーー!」と声を挙げましたよ。
物理的な視点の斬新さもながら、「のれんが掛からないから商売が出来ない」という意見に対して、諦めない発想の転換の見事さと、何より、悲嘆に暮れる愛娘の声に対して無条件で同情しないその気丈さ・・・。

以下、簡単にその時の話を会話風に再現すると、
姉:「お母ちゃんは簡単に言うけど、たくさんの人が死んだんやで」
母:「あんた、そげなこと言うなら戦後の時の話ばしちゃろうか。戦争で日本人は300万人死んだとばい。ばってん、戦争に負けた日の夕方には豆腐売りが豆腐ば売りに来たばい」
姉:「でも、お母ちゃん、そんなこと言うても何も売る物無いねんで」
母:「売る物が無いなら、お湯ば沸かして店で売れば良かたい。とにかく、店に灯りば点けとかな。明かりば点けとけば、灯した明かりが表に出て街頭になろうが。そげんして通りば作るったい」

・・・まあ、時期が時期だけに、武田さんもこの話をするのにかなり、言葉を選んでおられたように思えましたが、とにもかくにも、一介の巷の主婦の口から「通り論」まで聞かされるとは・・・。
本当にここ最近、これほどに感銘を受けた話は最近は無かったですね。
少し、この一族を見直しました・・・。
(小説家 池田平太郎/絵:そねたあゆみ)
2011.07

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