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『こぶとり爺さん』に学ぶ接待術

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(絵:吉田たつちか)

昔話『こぶとり爺さん』は、皆さんご存知のお話かと思います。本州から沖縄まで類似したお話は残っており、説話集『宇治拾遺物語』にも似た話が収録されています。このお話は場の空気を掴む大切さ、空気を壊すのは何かを教えてくれます。これを覚えておけば接待等に使えますよ。
 あらすじはこうです。頬に「こぶ」のある翁が、柴刈りの帰り道ににわか雨に降られます。木のうろで雨宿りしていると、近くで鬼の宴会が始まってしまいました。その様子がとても楽しそうだったため、思わず翁は踊り出てしまうのです。それがあまりにも上手だったため、鬼は褒美に「こぶ」を取ってやります。これを聞いた翁の隣の家の、同じく頬に「こぶ」のある翁も鬼の宴会に参加し踊りを披露するのですが、下手くそだったため「こぶ」を増やされてしまいました。
 ここでポイントは、「褒美が目的か否か」です。こぶを取ってもらった翁は、褒美を目的にしていません。鬼たちと楽しい時間を過ごすために踊りました。一方、もう一人の翁は褒美目的です。「これさえすれば褒美がもらえる」と邪な考えで踊ったため鬼たちを怒らせました。
 この場面は、接待や社内宴会でもよく見かける光景ですね。取引先や上司に目的をもって近づいた人物は敬遠され、一緒に楽しもうと考える人物は褒美をもらえる。これは何故かというと、人間は自分の物を奪われることを基本的に嫌うからです。それが金品であっても能力であっても同じ。ですから、褒美を目的に近寄ってくる人物を警戒します。
 逆に、自分の利益を増やしてくれる人物には好感を抱くもの。この利益とは、楽しい時間といった目に見えないものも含まれます。「こぶ」を取ってもらった翁は、踊りをもって鬼に楽しい時間を提供しました。
 そもそも、宴会の目的は、仲間と楽しい時間を過ごすことです。楽しい時間を作れるのであれば、踊りでなくても歌でも構わなかったでしょう。「こぶ」を増やされた翁の間違いは、これです。踊れば褒美が貰えると思った。もしこの翁が、踊らずとも鬼たちと楽しもうとしたなら、「こぶ」を増やされることはなかったはずです。
 現代の接待も社内宴会も、本来は親睦を深めることを目的としています。この目的を見誤らず、「こぶ」を増やされないようにしたいものですね。場の空気は見えないからこそ、しっかり目的を理解した上で臨んでいきましょう。

(コラムニスト ふじかわ陽子)2021-12

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