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食べ物の恨みは歴史を変える

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(絵:吉田たつちか)

 1905年(明治38)、帝政ロシア軍の軍艦で反乱がありました。軍艦の名前は『ポチョムキン号』です。この反乱は1925年にソ連で映画になっていますので、名前を知っている人も多いかと思います。
 この記事を書いているいま現在、ロシア軍がウクライナを攻撃していますが、このポチョムキン号の反乱のとき、ウクライナの市民が帝政ロシア軍に虐殺されたりしていました。そんなときでしたから、ポチョムキン号の反乱は市民に歓迎され、この反乱がキッカケとなって、ロシア革命が起こるのです。
 ではなぜこの戦艦で反乱が起こったか?
 実は食べ物が原因だったんです。狭い戦艦の中では食べることが数少ない楽しみ。そしてウクライナ発祥の名物料理で、世界三大スープのひとつであるボルシチに入れるお肉に、なんとウジ虫が湧いていたのです。それを見てしまった水兵たちは怒り心頭。
 ところが船長や軍医は「洗えば食える。食わないと銃殺にするぞ」と脅して食べさせようとしたとか。
それでなくても、不平不満が溜まりにたまっていたところ、ついに水兵たちの怒りが大爆発! 水兵たちは上官を倒し戦艦を占拠、この反乱はやがて水兵たちが降伏することで終わりますが、ロシア社会主義革命へと繋がっていきます。
ボルシチは、ウクライナはもちろん、東欧やロシアなどで広く食べられている煮込み料理であり、「ルーシ人(ウクライナ人やロシア人などスラブ民族)がボルシチを買うことは稀なことか全くない。なぜなら、それは主食であり飲み物なので誰もが自宅で調理するからだ」と、言われるほど、伝統的家庭料理で、色は赤くやや酸っぱい味が一般的です。

他にも戦艦ポチョムキンの反乱より約100年前、フランスに革命が起こりました。その原因の一つとして、飢饉で市民がろくにパンを食べることが出来なかったことにあります。そのときフランス王妃マリー・アントワネットが「パンが食べられないのなら、ケーキ(ブリオッシュ)を食べればいいじゃない」と言ったのが市民に伝わり、飢えている市民は怒り心頭! ついには革命を引き起こしてしまったそうな。
実はこの言葉は、マリー・アントワネットが言ったものではなく、マリー・アントワネットが子ども時代に、フランスの哲学者、ジャン・ジャック・ルソーの自伝『告白』に書かれたもの。そしてこの言葉は、ルソーが初めて書いたというより、フランスなどヨーロッパに古くから伝わってきた『おはなし』であるらしいのです。
しかしマリー・アントワネットやフランスの貴族たちが、市民の飢えを無視して、とても贅沢な暮らしをしていたのは事実であり、そのことがフランス革命の原因の一つであったというのもまた事実。
この話に出てくるブリオッシュはケーキというよりも、バターや砂糖、牛乳などをふんだんに使った高価な菓子パンです。最近流行っている「マリトッツオ」はこのブリオッシュにたっぷりの生クリームを挟んだもので、ローマの伝統菓子の一つです。
さて、「食べ物の恨みは恐ろしい」といいますが、実際に革命を起こしてしまうこともあったのです。願わくば世界中が、戦争や争いごとをやめて、美味しい料理を楽しく食べたいものですね。
(食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2022-04

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