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鶏が神の使いから世界で最も食べられている肉になるまで

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(絵:吉田たつちか)

 私たち人類がいま一番食べている肉は、1位鶏肉、2位は僅差で豚肉、3位が牛肉だそうです。今回はそんな鶏にスポットを当ててみましょう。
 世界的大富豪のビル・ゲイツさんは「1日2ドルで暮らす貧困層に、鶏を支援する」とおっしゃったそうな。
 その理由は、鶏は育てるのが簡単で、餌代もあまりかからない。さらに5羽のメンドリからスタートしたとして、近所から1羽のオンドリを借りて卵を産ませれば、3カ月もすれば40羽のヒヨコを持つことができ、大人の鶏は1羽5ドルで売れる。もちろん卵も取れる。
 そしてビル・ゲイツさんはアフリカに10万羽の鶏を寄贈したそうです。
 牛は生まれてから子牛を産めるようになるまで2年以上。
豚は1年。鶏は半年で、卵を産めるようになります。そして何より飼育コストがすごく安い。
 だから大航海時代などでは船の上で鶏を飼っていました。それがいまや宇宙ステーションや、火星移住のときのために鶏を飼う研究が行われているそうです。
 現在、年間で消費されるブロイラー(肉養鶏)は推定で650億羽もいるそうです。日本人が1年間に食べる卵は130個。人類にとって鶏はなくてはならないものになっています。
 鶏が人類に飼われるようになったのは7000年前。しかし当初の目的はどうも食べるためではなかったらしいのです。
 古代エジプトでは、姿や鳴き声を楽しんだり闘鶏を楽しんだりしていたそうな。これは日本も一緒で、日本では戦国時代宣教師など西洋人が来るまで、もっぱら姿や鳴き声、闘鶏を楽しんでいたらしいのです。
 日本では古来、鶏は「朝を告げる神聖な鳥」とされていました。また古代エジプトでも古代ローマでも多くの国で神の使いとして神聖視されていたのです。
 日本神話にも天岩戸に引きこもったアマテラスを出すために、太陽を呼ぶ鳥とされた長鳴鳥(ながなきとり・鶏)の鳴き声でアマテラスを外に出そうとするエピソードが出てきます。
 さて、そんな神聖視されていた鶏ですが、江戸時代になると、鶏肉も卵も食べるようになります。とくに卵は『卵百珍』という料理書が出るほどでした。
 鶏肉はというと、日本人は肉を鍋にするのが好きみたいで、1643年(寛永20年)の『料理物語』に「南蛮料理 鶏の水たき」という名で長崎の名物として出ています。
南蛮料理というのは西洋や東南アジアなど外国のことですから、最初は西洋人あたりから伝わったのかもしれませんね。
「鶏の水炊き」は主に西日本で愛された料理ですが、坂本龍馬が好きだったと言われる「軍鶏鍋」は江戸でも人気だったようです。

古代では神聖視された鶏ですが、品種改良もやりやすく、養鶏所はまるで工場のようになり、鶏肉や鶏卵の大量生産が可能になって、いまや食肉でもっとも食べられるものとなりました。
アメリカがまだ黒人奴隷制だったとき、黒人は安価な鶏肉・チキンくらいしか食べることができませんでした。
そのため鶏肉と黒人差別がつながってきます。
だからchicken(チキン・鶏肉)は臆病者という意味になり、cock(コック・雄鶏)はペニスという隠語になりました。
ちなみにスイカも「黒人はスイカばかり食う」という差別用語に繋がるそうですから、米国人とお話するときはご注意ください。
今回は鶏のお話でした。
人類はあるときは鶏を神の使いとし、あるときは差別にまでつなげました。
鶏肉はいまや人類にとってなくてはならないもの。
大切にありがたくいただきたいですね。

(文:巨椋修(おぐらおさむ) 食文化研究家)2023-01

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