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鼠小僧もギャンブル依存症?

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(絵:吉田たつちか)

 ギャンブルは恐ろしいもの、それをしみじみ実感する出来事が最近ありました。なんと、大人気大リーガーの大谷翔平選手の通訳の水原一平氏がギャンブルにのめり込み、巨額の横領をしたとのこと。ファンは大いに落胆しました。水原氏はとても善良そうな人に見えたからです。
 実は日本の歴史を紐解くと、善人そうに見えてもギャンブルで身を持ち崩した人物は他にも存在します。それは鼠小僧です。彼は庶民の味方、義賊だと呼び声が高いのですが、真実は違います。
 庶民の味方と思われている盗んだ金子を撒くというのは、逃走経路の確保のため。昔の住宅地は今よりも密集しており、所によっては隣の家まで数センチといったものもあったほど。ですから、逃走経路の家々に小判数枚を置いていけば、易々と追っ手をまくことができました。こうやって鼠小僧は約10年の間、江戸の武家屋敷を中心に盗みに盗んだその額は現代の貨幣価値で換算すると、一説には約12億円なんですって。この金を鼠小僧は何に使ったのでしょうか。庶民の味方と言われるほどですから、困っている人に使ったと考える人も多いはずです。
 しかし、残念なことに鼠小僧のお金の使い道は「賭博」、つまりギャンブルでした。天保3年に奉行所に捕まった時には、ほぼ無一文だったのだそう。質素な家に家具はなく、離縁した妻のもとにも妾のもとにもお金はありません。故郷の親兄弟からは絶縁をされており、天涯孤独の身となっていました。それもこれも、すべてギャンブルのせいだったのです。
 ギャンブルで負けると盗みに入り、借金を返すとまた賭ける。そんな生活を送っていたよう。こんな人に妻も妾も、血縁のある家族もついていけません。それなのに、世間では「義賊」と実像と違うイメージを抱かれている。相談できる人もおらず独りぼっちになった鼠小僧は、さらにギャンブルへの依存を高めていったことは想像に固くありません。
 これは水原氏も同じでしょう。嘘を重ね孤独に陥り、ギャンブルへの依存を高める。誰かに相談しようにも、弱みを見せることに抵抗もあったかもしれません。それでも相談すべきでした。鼠小僧も同じです。例え一時的に恥ずかしい思いをしたとしても、自身だけでなく周囲の大切な人たちも不幸にすることはなかったでしょう。今も昔も変わらないギャンブルの恐ろしさ。依存症になった人とどう接していくかは、カジノ構想が持ちあがっている昨今の大きな課題ですね。(コラムニスト ふじかわ陽子)

(コラムニスト ふじかわ陽子)2024-7

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