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昔話『おむすびころりん』で学ぶ自利利他の精神

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(絵:吉田たつちか)

昔話『おむすびころりん』はご存知でしょうか。『ねずみ浄土』という名前でも親しまれており、無欲なおじいさんと強欲なおじいさんの対比を描いたお話です。
現在よく知られているストーリーは、以下の通りです。無欲なおじいさんがおむすびを食べようとすると、手から落ちてころりんと穴に入っていきます。追いかけていくと、穴の中でねずみたちがおむすびを喜んで口にしている様子。これを見たおじいさんは快くねずみたちにおむすびをあげると、ねずみたちはお礼にと大きいつづらと小さいつづらを差し出してきました。おじいさんは自分で持てる小さいつづらを選び、帰宅後に開けてみると金銀財宝が。その様子を見ていた隣の強欲おじいさんは、大きなおむすびを作り、次の日にねずみの穴に突っ込みます。そして、「礼を寄越せ」とねずみたちを脅しました。震えながらねずみたちが大きなつづらと小さなつづらを差し出すと、なんと強欲おじいさんは猫の鳴きまねをしたではありませんか。強欲おじいさんは、驚いたねずみたちが一斉に逃げたあと、両方のつづらを持って行こうとしたのでしょう。しかし、逃げる際にねずみたちは灯りを消したので一面真っ暗。哀れ強欲おじいさんは、穴の中に閉じ込められてしまいましたとさ。地域によっては、おむすびがお団子になることも。
この昔話の教訓は「欲張ってはいけません」が、分かりやすいものです。もう一つ忘れてはならないのが、自分以外の者の利益について。難しい言い回しをすると「利他」といいます。仏教では自分以外の利益となることを行うと、人々が救われるという意味があります。『おむすびころりん』では無欲なおじいさんが自分の空腹をこらえてでも、おむすびを喜ぶねずみたちに与えた。まさしく「利他」です。この思いやりに、ねずみたちは大切にしてきた宝物を贈りました。結果、おじいさんはねずみたちの利益を考えたところ、自分の利益になっていることになります。これを「自利」といいます。「利他」とあわせて、「自利利他」と仏教では呼びます。ことわざの「情けは人の為ならず」が近い意味ですね。
現代では「自利利他」という言葉はほとんど耳にすることがなくなり、「情けは人の為ならず」も誤用されることも多くなりました。それでも『おむすびころりん』が語り継がれている間は、日本人の心のどこかに自分以外の者の利益を考えられる優しさが残っているはず。自分のことだけでなく、誰かのことを考えられる余裕と想像力を失わずにいたいものです。

(コラムニスト ふじかわ陽子)2025-01

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