UA-77435066-1

10のものを10発揮する努力

 | 

1301-1 いつもの手前勝手な持論を言わせて頂くなら、「私の拙い経験の中での話で恐縮だが、企業の中で、10の力を10発揮しているところは少ない。多くが、10のうち7くらいの力しか出し切れていないように思う。であれば、10のものを12にしようと努力するよりも、7のものを9にしようとする努力の方が、よほど、実現が用意なのではないだろうか・・・」というものがあります。

平たく言えば、「10のうち、7しか力を発揮してない組織に9の力を発揮させようとする努力」だと言えるでしょうが、そういうと、「じゃあ、具体的にどういうことを言うんだ!」とお叱りを頂戴するかも知れません。

具体的に、その一例として挙げるのが、元帝国陸軍大本営参謀から、伊藤忠商事最高顧問に転身し、土光臨調の参謀長にまで登り詰めた瀬島龍三という人がいますよね。

この人を「偶像化」したのが、山崎豊子氏の小説『不毛地帯』で、その主人公のモデルに擬されたことだと、保阪正康著 「瀬島龍三―参謀の昭和史」などでは言われています。

この人は、伊藤忠入社後、帝国陸軍の参謀本部を模した「瀬島機関」と呼ばれる部署を作り、自ら、それを率いて伊藤忠を総合商社に育て上げていったことは周知の通りでしょうが、一方で、私が学生時代に大いに影響を受けた元陸軍参謀で兵法評論家として知られる大橋武夫氏は、当然ながら、氏とも交流があり、「不毛地帯」で描かれたところの第三次中東戦争における情勢分析について、その圧巻として述べておられました。

曰く、「①イスラエルが勝つ ②短期間で終わる ③スエズ運河は閉鎖される」と。

当時、大方の予想は、すべて、その逆であったにも関わらず、瀬島氏はこれをすべて的中させたそうですが、中でも特に人々を驚かせたのが、③を的中させたことだったそうです。①と②は、ある程度、軍事的な知識を持った人なら、まあ、わからないでもないと言いますが、③は、さすがに、誰も予測出来なかったとか・・・。

瀬島氏に、それが予測出来た秘密こそこの稿の本旨なのですが、それはむしろ、「人の気持ちなどわからない」と言う観があるエリート参謀の出で、伊藤忠入社後も、企業内参謀本部を作った男の発想とは思えない着眼点でした。

氏は、伊藤忠商事に入ってすぐに、トントン拍子で出世していったわけですが、副社長になったとき、彼は、自ら世界中の伊藤忠の支店、営業所を廻ったのだそうです。

中には、アフリカなど、あまりに辺鄙な場所で、存在自体、忘れられたかのような営業所などもあったそうですが瀬島氏は、ちゃんと、そこの駐在員を訪ねて廻ったと言います。

でも、訪ねて来られた方としては、突然、そんなところへ、本社のお偉いさんが訪ねてくるなんて、「何かあるんじゃないのか!」と、当初、疑心暗鬼になって、これを迎えたそうですが、粗末な駐在所で共に夜を徹して話し込み日本から持ってきた酒を酌み交わすうち、段々と、皆、心を開くようになったとか。

彼らにしてみれば、一番、耐えられないのが、「自分は忘れ去られている」と思えることだったでしょう。本社にどんな情報を送っても本社からは何も言っては来ないし、来るはずの交代要員も来ない・・・。

これでは、「俺は忘れられて居るんじゃないか・・・」という気持ちにもなろうというもので、それは即ち、商社にとって命綱とも言うべき情報の末端神経が機能不全を起こすことを意味するわけです。

瀬島氏は、彼らに、「何を言ってるんだ!会社は、おまえを頼りにしているんだぞ!」と言い、あるいは、「心配するな!本社に、この瀬島が居る限りは・・・。」みたいなことも言ったでしょう。

これで、奮い立った、これらの営業所から送られてきた情報を基に、瀬島氏は第三次中東戦争を分析し、伊藤忠に莫大な利益をもたらしたわけです。

10のものを10発揮させる努力・・・、おわかり頂けたでしょうか。(小説家 池田平太郎/絵:そねたあゆみ)

2013-01

コメントを残す