旧暦10月12日、俳聖松尾芭蕉の忌日で「時雨忌(しぐれき)」と呼ばれます。「時雨」とは晩秋から初冬にかけて不意に降ってくる冷たい俄か雨のことで、通り雨の如く過ぎることから「過ぐる」が転じて「しぐれ」となったとされています。現在「時雨忌」は芭蕉のお墓がある滋賀県大津市義仲寺で新暦11月第2土曜に法要と句会が、他にもゆかりのある各地で俳句大会等が開催されています。「時雨」は旧暦10月(新暦の11月頃)の異称としても使われ、芭蕉が好んで詠んだ季語の一つで、「初しぐれ猿も小蓑をほしげ也」「時雨るゝや田のあらかぶの黒むほど」など名句も多く残されています。芭蕉は元禄7年の秋、長崎へ向かう途中の大阪で病に倒れ、同年10月12日に門人らに看取られながら51歳の生涯を終えました。辞世の句となった「旅に病んで夢は枯れ野をかけめぐる」は、「旅の途中で病気になっても夢の中では草の枯れた野原を旅している」といった意味で、旅に生き旅に死した芭蕉の生涯を如実に表している名句と言えるでしょう。「奥の細道」の旅の初め、千住に滞在した日数が多いにも関らず作品中に消息が殆ど無いため、隠密としての任務を受けに行っていたのではないか出生地伊賀との関係から実は忍者だったのではないか、など諸説が伝えられ、俳聖としての絶対像と謎に包まれた神秘性の両面に、現在に至っても興味が尽きることのない偉大な人物です。
(文:現庵/絵:吉田たつちか)