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人間は感情の生き物  

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(絵:吉田たつちか)

 ナポレオンは「すべての人間を動かす二つのテコ、それは恐怖と利益だ」と言ったそうですが、私に言わせると、「すべての」と言うなら、あと二つ、「大義名分」と「人間感情」も加えて欲しいですね。大義名分なんて・・・と言われるかも知れませんが、これは意外に大事なんですよ。世間から冷たい目で見られていた、ある信販会社は社員に対し、「我々はお客さまの豊かな暮らしと夢を、資金を融通することで支援するんだ。何も後ろめたいことはない」と言って聞かせたら、著しく業績が向上したと言います。
 一方、人間感情ですが、以前、若い農家の方が、「トラクターは壊れると修理が大変。牛馬ならこんなことはなかった」と言うのを聞いて、ある年配農家の方の言を思い出しました。曰く、「機械なら修理できるが、牛馬は機嫌を損ねたら引っ張っても叩いても動かない。あんな大きいのが動かないと人力ではどうしようもない。日が暮れてくると灯りも無いし、といって、牛馬は農家にとっては大変な財産なので、置いて帰るわけにもいかないし」と。ましてや、人間は万物の霊長。「みんな仲良くしてね」で仲良くなれば良いですが、相性というものはあるわけで・・・。
豊臣秀吉と武田信玄には従順だった真田昌幸も、どういうわけか戦国武将の中では、少なくとも表面的には温和で篤実な印象がある徳川家康とは徹底して反りが合わなかったし、温厚篤実で比較的、敵がいなかった、来年の大河ドラマの主人公で、かつ、新1万円札の顔となる渋澤栄一も、どういうわけか、時の最高実力者・大久保利通とは反りが合わず、逆に、渋沢の政敵、三菱の岩崎彌太郎は大久保とは初対面から意気投合したと。この辺は、有能さとか、やる気といった以前の、人間としての相性の問題があるような気がします。
 東条英機が、巣鴨プリズンに収監中に、日系二世の通訳のあまりの行儀の悪さに憤慨し、思わず、「親の顔が見たい」と言ったら、彼は自分の親に「トージョーがパパとママの顔を見たいって言ったよ」と自慢したという笑い話もありますが、世の中には、悪気があるわけでもないのに、どうにも、噛み合わない人というのがいるんですよね。
 もっとも、不仲のごろつき同士を同じ牢屋に入れておくと、最初は口も聞かないのが、一日経ったらすっかり仲良しになっている・・・という話もあります。明治陸軍のホープと目された長州の桂太郎と薩摩の川上操六は犬猿の仲で、両者の不仲を案じた陸軍上層部が、洋行の際、両者の船室を同じにしたら、着く頃には親友になっていたと。どうやら、男という生き物は、エリートもごろつきも基本的なところは大差ないようで。(小説家 池田平太郎)2020-09

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