UA-77435066-1

失敗から生まれた世界一多く飲まれている炭酸飲料ら

 | 

(絵:吉田たつちか)

 世界一多く飲まれている炭酸飲料水をご存じでしょうか? そうです。コカ・コーラです。ではコカ・コーラの『コカ』の意味をご存じでしょうか? コカ・コーラのコカはあの悪名高き麻薬の『コカイン』のコカなのです。
 もともとコカは、メキシコや南米原産の木で、先住民は宗教儀式や痛み止めとしてコカの葉を使っていました。ときは19世紀、欧米ではモルヒネ依存症患者が多くなり、その治療薬として登場します。
 麻薬の治療薬に麻薬とは、ウイスキー依存の治療として焼酎をすすめるようなものですが、当時としては、コカインはそういう立ち位置だったのです。
 19世紀のコカインはそう悪いものとも考えられておらず、名探偵シャーロック・ホームズもコカイン愛用者として描かれ、有名な精神分析医のフロイトなどは自らも使用し、多くの人に強壮剤や憂鬱を吹き飛ばす魔法の薬として、多くの人に勧めたりしていたほどです。
 1885年、アメリカの薬剤師ジョン・S・ペンバートンはモルヒネ依存症やうつ病の治療薬として、フレンチ・ワイン・コカを開発。これはワインとコカインの混合物でした。ところが、当時アメリカでは禁酒運動が盛んになり、フレンチ・ワイン・コカもアルコールを含んでいるため攻撃の的に。
 そこでペンバートンがお酒を含まない飲料として、コカ・コーラを開発するのですが、ここでもわかるように、当時はコカインよりもお酒の方が悪者だったのです。ペンバートンは、お酒を含まないコカイン入りの治療薬の研究することになるのですが、そこで目をつけたの「コーラ」です。
 コーラはアフリカ原産の樹木で、その実にはカフェインが含まれています。ペンバートンはコカイン+コーラエキスで新しい治療薬を創ろうとしたのでした。
 しかしなかなかうまくいきません。味は悪くないので、失敗作に冷たい水を入れるように助手に指示すると、助手も冷たい水と炭酸水を間違えてコップに入れてしまいます。しかし飲んでみると美味しい。これがコカ・コーラの誕生した瞬間でした。
 失敗作に助手も間違えて入れた炭酸水、二重の失敗という偶然から生まれたのがコカ・コーラだったのです。
 コカ・コーラは最初、薬局で売られていました。当時は薬局で、コカ・コーラの原液を炭酸水で割って薬局の片隅で飲むものでしたが、それでも人気が出るようになりました。
 またこの時代に薬局以外でも飲めるようにと瓶詰にして売るようになります。そしてその時代、ようやくコカインの害に気が付いた人たちが、お酒より安価で子どもでも飲めるコカ・コーラを非難するようになり、コカ・コーラ社はコカイン成分を抜くことになります。
 これでコカ・コーラは健全な飲み物として全米、そして全世界に広がっていくのです。
 日本にコカ・コーラが入ってきたのは、大正時代。高村光太郎の『狂者の詩』という作品に
“コカコオラ、THANK YOU VERY MUCH 銀座二丁目三丁目、それから尾張町 電車、電燈、電線、電話 ちりりんちりりん“
 というものがあります。銀座というおしゃれな街、電車、電燈、電線、電話という時代の最先端ものと一緒に出ているというところがいかにも大正モダニズムといったところですね。
 そして昭和24年(1949)、それまで輸入品だったコカ・コーラの国内製造がはじまります。昭和37年(1962)、広告活動をはじめ「スカッとさわやかコカ・コーラ」というテレビCMは一世を風靡しました。
 いかがだったでしょうか? いまや世界一の炭酸飲料となったコカ・コーラの歴史でした。二重の失敗とか、最初は薬だったとか意外な歴史があったかもしれません。身近な飲食物にも意外な歴史や文化があったりするものです。

食文化研究家:巨椋修(おぐらおさむ))2021-07

おぐらおさむの漫画「まり先生の心のお薬研究室」連載をネットで無料配信、スタート

コメントを残す