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町おこしは民泊から

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(絵:吉田たつちか)

 駅前がャッター通り化しているのは、日本の田舎の定番の風景となっている。加えて、超高齢化社会の波及現象として、空き家が増えており、こちらの問題解決も急務だ。
 小生が2年前の2年間町内会長を務めた地区は、約80世帯のうち、別荘と定住者が半々であった。地元の不動産業者の協力を得ながら空き家解消に努力してみたが、新たに入居したのは3世帯だけだった。 
 夫がドイツ人で妻が日本人の若夫婦は、町内で最も高額で売り出されていた家(別荘だったところ)を購入、その後、子供も産まれ、町内清掃行事などにも欠かさず参加して、早くも地域に溶け込んでいる。また、妻を祖国に残したまま日本に単身赴任しているというブルガリア人の男性は古い別荘を格安で購入し、コツコツと自分でリフォームしている。一部朽ちていた1階の床板をはがしたら、竹が飛び出てきたと驚いたというが、めげずに、楽しそうにリフォームにチャレンジしている。
 自動車整備士を定年退職した後、老後を姉と田舎暮らしをしたいと空き家を購入したBさんは、なんでも器用にこなすので、木の伐採や道路の改修、側溝の修理など、町内で無くてはならない人気者となっている。実は、彼の購入した家は数台置ける駐車場と小さな畑もおまけでついていたのに、格安で購入できた。理由は、その家までの道路が規定より狭く、法的には建て替え出来ない場所だったからだが、前の持ち主が高齢で介護施設に入居したため、急遽激安で売りに出したもので、空き家期間が短かったので、ほとんど補修いらずで住むことができた。釣りが趣味の彼は姉さんを助手席に乗せ、小型車のルーフに小型ボートを載せて、釣り三昧の日々をおくっている。
 駅前商店街で、昔、八百屋だった店舗を借りて、食堂を始めたA若夫婦。都会からの移住組だが、台湾出身の奥さんの料理が人気を呼んでいる。この夫婦は町おこしをするのだと張り切っている。まず、若手経営者の不動産屋とタイアップして、空き家を借り受けて、民泊を続々オープンさせさている。
 コロナが開けて、世界中から旅行者が来日しているが、お金持ちで高額な宿泊施設に泊まる人が多い一方、若い人を中心に、なるべく安く泊まれる場所を求めている人々も少なくない。いわゆるバックパッカー(低予算で個人旅行する旅行者のこと。バックパックを背負って移動する者が多いことから、この名が付けられた)族を対象とした宿泊場所を提供しているのだ。
 これら散在する宿泊施設のフロント業務は食堂で行う。営業や案内は全てネットだという。宿泊施設では食事を出さないので、人件費もほとんどかからない。コストは限りなく安く抑えることができ、低料金で宿泊場所を提供できる。
 そして、なにより波及効果が大きいのは、飲食は近所のラーメン屋、食堂、レストラン、焼肉屋、とんかつ屋などを利用、風呂は、日帰り温泉を利用、夜は日本の文化の一つでもあるカラオケスナックで楽しむなど、旅行者の満足度が高いと同時に街の活性化にもつながりつつあることだ。
 彼らの動きに呼応して、マンションの空き部屋を簡易宿泊施設にしたり、喫茶店の母屋を宿泊施設に改造するなど、従来からの住民にも触発の輪が広がり始めている。
 このように、町おこしは、まず、安く提供できる宿泊施設の拡充から始めるのがいい。若手経営者への行政支援は不要だ。必要なのは、彼らの自由な行動を邪魔しないことだ。必要なら、時代にそぐわない古い法律や条例を速やかに緩和することである。
   

(ジャーナリスト 井上勝彦)2023-11

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