敷居が高いと思われている美術館だが、楽しみ方を覚えると、病み付きになる筈だ。有名な画家や海外の美術館の出張展などはチケット代も少々高くつくが、大体が千円前後で見ることが出来る。映画を見ることを考えたら、お徳だと思う。
絵画に付けられている額を、立派なものだと思うから、しり込みしてしまう。あれは、描かれている対象を見る為の「窓」だと考えると、絵画はずっと親しみやすくなるはず。自分の部屋の窓から見える風景を、今度は別の部屋から覗いているようなものなのだ。窓の中では、人物が笑っていたり、悲しい表情をしていたり、またはポットや果物などの静物が置かれていたり、あるいは、綺麗な風景が広がっていたりする。抽象画などは、画家の心の風景を垣間見ることが出来る。
描き手の目に映ったものが、筆に乗り、カンバスに伝わっていく。これは、見えたものの事実だけを述べるだけではなく、画家本人がモチーフに対する感想も含まれている。写実的な絵であっても、写真のようにはいかない。少しのフィクションが入っている。これを発見するのが、芸術鑑賞の醍醐味だ。
じっと同じ絵を見つめていると、自分までその窓の中に入り込んでしまう錯覚を起こしてしまうことがある。目に見える画面の中だけではなく見えない部分に思いを馳せ、自分の頭の中にも絵が描けるようになったら、絵画を存分に楽しめているだろう。もし風景の中に溶け込めたら、この人物と会話をしてみたらなど、妄想を膨らませながら見るのも、一興かも知れない。
(文:講談師 旭堂花鱗/絵:吉田たつちか)05-07