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徒手空拳、創業者の定義

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(絵:吉田たつちか)

 よく、織田信長や徳川家康を創業者だと思っている人がいますが、彼らは小なりと言えど、生まれながらに家があり、家来がいたわけですから、創業者どころか、立派な二代目なんですね。同様に、零落していたとはいえ、毛利元就しかり。ろくに家来さえいなかったと言っても、「家柄」があったという点では源頼朝もしかり。ましてや、武田信玄、伊達政宗、大友宗麟などは家督を継ぐまでの曲折はあったにせよ、生まれながらに一国の嫡男だったわけで。もっとも、この点は日本に限ったことではなく、生まれながらの王家という点では、アレクサンドロス、始皇帝しかり。また、出身階層別にみても、カエサル、チンギスハーン、ティムールなど、小領主や没落貴族の出という人が多く、純粋に徒手空拳で天下を獲った「創業者」という人は世界史的に見ても、決して、多くはないんですね。
 こういうと、「豊臣秀吉がいるじゃないか」と言われそうですが、創業者の定義を「個人が新たに事業を開始すること」だとすれば、秀吉の場合は、織田家での内部昇格に近いんですよ。もちろん、信長から譲られたわけではないでしょうが、と言って、信長を倒して天下を獲ったわけでもなく、信長横死後、ライバルたちを倒して天下獲りにこぎつけたわけで。言うならば、上場企業の社長に叩き上げの人がなったようなもので、少なくとも、本田宗一郎や松下幸之助のように、若いうちから、自分の店を持ち、それを大きく育て上げた人ではないんですね。この点では、フランスのナポレオンや、エジプトのバイバルスなども同様に内部昇格組と言えるでしょうか。
 そう考えれば、日本の歴史でもっとも創業者という概念に近いのは、伊勢宗瑞(北条早雲)でしょうか。ただ、彼も元々、室町幕府の高級官僚出のようですから、創業者であっても、徒手空拳かと言われれば考えるところで、むしろ、「乗っ取った」という意味では、斎藤道三かもしれませんが、彼も近年の研究では一代にして成りあがったわけではなく、父子二代での国盗りだったともいわれており・・・。
 ただ、中国にはいるんですね。前漢の高祖皇帝・劉邦や、明の太祖皇帝・朱元璋のように一揆に加担して、その中から頭角を現し、文字通りの徒手空拳で皇帝に上り詰めた人が。(流民の発生が王朝交代を促してきた国ゆえのことでしょうか。)ちなみに、ちとイレギュラーなのが、唐の太宗皇帝・李世民。前王朝の地方長官だった父を挙兵の時から助け、ほとんど、彼の力で唐帝国を建国。しかし、順序上、初代皇帝には父がなり、皇太子は兄。結果、彼は兄と弟を殺し、父に迫って実力で二代皇帝に即位。初代ではないけど、二代目かと言うと・・・。 

(小説家 池田平太郎)2024-5

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