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貧乏人ほど太るのが21 世紀の食文化

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(絵:吉田たつちか)

地球に人類が生まれて500万年、人類の夢は常に「お腹いっぱい食べたい」でした。それが20世紀の後半の先進国では、ようやくその夢がかなうようになりました。
長い人類史の中でも、ほんのつい最近のことです。それもこの日本においては、朝はハムエッグとトースト、昼はラーメンに餃子、夜は肉にしようか魚にしようかと、世界中の料理を、毎日のようにとっかえひっかえして食べています。
おそらくこんな多様な食事をしているのは、先進国の中でも日本だけでしょう。
ところが500万年の夢をかなえた我々人類にひとつの難問が出てきました。
それは肥満。
かつて肥満は富の象徴でした。
みんな太りたくても太れなかったからです。
ところが時代は変わった。
太っていることが富の象徴ではなくなり、むしろ「だらしない」とか「かっこわるい」とか言われるようになってしまったのです。
日本においてダイエットが流行り出したのは1960年代に華奢で細身のモデル「ツイッギー」が来日、その可愛らしさと足の細さが日本女性に衝撃を与えました。そしてミニスカートの流行。
これまでの日本女性には「美脚」とか「細い=美しい・かわいい」という発想そのものがなかったのです。そしてこのあたりから日本女性は体形を気にするようになります。
1968年(昭和43)、日本は世界第2位の経済大国になりました。「白いご飯をお腹いっぱい食べられたら幸せ」という時代から、「飽食の時代」と言われる飽きるほど食べることができる時代がはじまったのです。
テレビからは、これでもかこれでもかと美味しそうな食品のCMが毎日流れてきます。
77年、クレープが流行
90年、ティラミスが流行
92年、第一次タピオカブーム。
93年、ナタ・デ・ココ
94年、パンナコッタ・・・
美味しいスイーツも世界中から集まってきます。「食べたい! でも太りたくない!」という人類史上もっとも贅沢な悩みを抱える人が増えてきます。
そして人類史上もっとも皮肉なことが起こります。かつて人類は貧しい人が痩せ、富裕層が太っていました。肉体を使うのは貧しい労働者、富裕層は命令や指図をするだけ。
ところが富裕層は食事を制限するようになり、時間を作ってランニングをしたりウェイトジムに通って、筋肉を鍛えだしたのです。貧困層には肉体を鍛える時間もお金もありません。
かつてあるマリー・アントワネットは「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」といったとか。(本当はアントワネットではなく哲学者のジャン・ジャック・ルソーが自伝で書いたセリフ)
しかしそれが実現する時代が来たのです。貧しい人は安いパンやカップ麺、スナック菓子でお腹を満たし、富裕層はダイエットやフィットネスのために栄養制限をする時代が。
かつての「高カロリー=贅沢な食事」の時代は終わり、21世紀の食文化は「低カロリー高たんぱくでバランスがとれた食事=贅沢な食事」へと変化しています。
さて、21世紀に生きる私たちは、今夜なにを食べましょうか?

(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究家)2023-07

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