(絵:吉田たつちか)
ウクライナ戦争が始まった時、私が驚いたことがあります。それが、「ロシアは21世紀になっても、まだロシアの戦争をしている」ということ。
開戦当初、多大な犠牲を出したロシアは、すぐにお手上げするだろうという見方がありましたが、ロシアはナポレオン戦争の昔から、いつの時代のどの戦闘でも、戦死者は突出して多いんですよ。一例をあげると、第二次世界大戦でも日本の死者300万人に対し、ソ連は一桁多い2,600万人。さらに、その100年前のクリミア戦争でも、フランス軍10万人、イギリス軍2万人の死者に対し、帝政ロシア軍は50万人。つまり、時代や体制が変わっても、この部分には変化はなかったということですね。(ただ、それでも、今はソ連も崩壊し、一応、建前上は民主主義の国ですから、もう、いくら何でもさすがに・・・と思っていたのですが、民族性というものは変わらないものだと改めて実感。)
また、1828年にロシアがドナウ両公国に侵攻した際には、戦闘開始以前に、ロシア軍全兵士の半数が飢えとコレラで死亡。で、ロシアがこの事態にどう対処したか?環境を改善するのではなく、兵士をさらに、これでもかと送り込んだんですね。生き残った者だけで戦闘すればいいと。当然、この傾向は、何も、この時限りのことではなく、2年後の1830年のポーランド侵攻では、戦死者7千人に対し、傷病死が8万5千人。
岡義武著「国際政治史」に曰く、「外国軍がロシアへ侵入することが困難であったのとほとんど同程度に、ロシア軍がロシアから外征することは困難であった」一方で、これを助長したのが、当時のロシア軍の兵員構成。当時のロシア軍の大半は、農奴(文字通りの農民奴隷)。貴族出身の士官らは、彼らを同じ人間として見ず、自らの昇進のためには、惜し気もなく犠牲にしたと。(この点は、帝国日本のエリート軍人然りでしょうか。)
一方で、帝政ロシアは世界最大の陸軍国であったものの、鉄道がない時代、広い国土の隅々から、農奴を徒歩か荷車で部隊の所在地まで輸送するだけで、数ヵ月の時間と莫大なコストを要したそうで、兵力不足解決のために、西欧諸国と同じ、国民皆兵制を導入しようにも、貴族らが農奴制の廃止を認めるわけもなく。
つまり、ロシアの特徴は、攻めより守りに強く、そして、痛みに鈍感。ナポレオンやヒトラーに攻め込まれても屈しなかったその国が、お手上げしたほとんど唯一の例があります。それが日露戦争。日本が快進撃を続けても、ロシア領に踏み込むことなく、かつ、国内の暴動を抑え込んででも、一年で講和したのは正解だったと言えるでしょう。 (小説家 池田平太郎)2023-09