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タクシーが来ない

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(絵:吉田たつちか)

行きつけのスナックにこんな張り紙が現れた。
「帰りのタクシーはお客さま各自で早めに確保してください」
 小生の住む田舎の村にはタクシー会社が1社しかない。運転手の平均年齢も70代だ。中には80代の運転手もいる。難聴気味で、会話もままならない。自宅から駅まで頼むと、国道周りのコースを敬遠する。国道にでるには信号がなく見通しも悪い丁字路を右折する必要があるが、危ないからと遠回りする。そのため、タクシー代も割高になる。この会社は車は使いまわしでなく、各運転手毎に1台あてがわれている。彼の車は外板が傷だらけだ。よく擦るからだ。乗る方も命がけだ。
 日中は駅前に2~3台いるが、電車から降りる人も少なく、暇をこいている。コロナ過の時は、売上も激減したと嘆いていたが、特段、焦ってもいない様子。ほとんどの運転手が年金暮らしか、お金持ちなので、タクシー運転手の給料だけで暮らしているわけではない。
 そのため、危険な夜間の運転を敬遠する運転手が多い。昼間は5~6台稼働しているが夜間は1台か2台だ。最近は1台しか稼働しない日の方が多い。
 スナックのお客の中には山の上の別荘に住んでいる人や、隣町にハシゴする人もいるので、30分~40分待ちのこともザラにある。かくて、冒頭の張り紙となる。
 タクシーが捕まらない現象は全国的なもののようで、国交省のデータでも、年々運転手の数が減っているのが明白だ(15年間で4割減)。しかも平均年齢は56.8歳(平成22年3月調べ)と、こちらも年々上昇している。
 先日、アメリカにいる孫と電話していたら、今、ウーバー待ちだという。スマホで簡単に車が呼べるのだそうだ。しかも、車はタクシーだけでなく、自家用車を持っている個人がいわゆる白タク営業をしているようだ。日本でも、ウーバーは上陸しているが、同社のメイン事業である配車サービスは許可が下りず、やむなく、飲食店のデリバリーサービスの営業でお茶を濁している。
 今や先進国では、ライドシェアが当たり前になっているのに、日本では既得権益保護が優先され、ユーザーの利便性は後回しだ。このような状況を放置していては、タクシー会社がなくなるだけでなく、夜の街の灯りも早晩消えかねない。
 AIの進化で、自動運転車の登場もまじかになってきた現代、あえて第二種免許を取得してまでタクシー運転手を目指す若者も出てこないのは当然だ。高齢運転のタクシーに乗るより若者が運転する白タクに乗った方がよっぽど安全だ。
(ジャーナリスト 井上勝彦)2023-09

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