(絵:吉田たつちか)
動物と話すことができたら…と夢見る方は少なくないでしょう。これは現代人だけでなく、昔の人もそう考えたようです。それは日本だけでなく世界各地に残る民話からもうかがえます。例えば、ユダヤ教・キリスト教の儀典とされる『ソロモン遺訓』に記されたソロモンの指輪。大天使ミカエルからこの指輪は、ひとたび指にはめると天使だけでなく悪魔をも従わせることができるというのです。それだけでなく、動物の話も聞けるのだそう。
日本でも昔話『聞き耳頭巾』が有名ではないでしょうか。主人公である男性が助けた動物からお礼に頭巾をもらい、その頭巾を被れば動物の話が聞けるとのこと。助けられる動物は地方によって違い、子狐であったり鯛であったりと様々。しかし、その後の展開はほぼ同じです。聞き耳頭巾を身に付けることで、動物の会話を理解できるようになります。この会話により財宝を手に入れたり、病気を治したり。
こうやって聞くと、昔話にありがちなパターンのように思えるかもしれません。でも、ひとつ大きく違うことがあります。それは、分かるはずもないと思い込んでいた動物の言葉に耳を傾ける点です。動物の言葉は普段、人間にとって意味をなさないもの。それに価値を見出した点が、他の昔話と大きく違います。
これは普段の生活でもいえることではないでしょうか。意味がないと素通りしているものが、実はとても価値のあるものだった経験は誰しも一度や二度はあるはずです。中でも相手が人間だった場合は、心が通じあった瞬間から友達になれたこともあるでしょう。また、理解できると、対象をどう動かせば自分の利益になるかも考えられるはずです。これはソロモンの指輪で、天使や悪魔を従わせたことでも分かることですね。
そうはいっても、現代に聞き耳頭巾もソロモンの指輪も存在しません。これでは動物と会話することはできないように思えます。そんな時に思い出してもらいたいのが、聞き耳頭巾をもらった経緯です。動物に寄り添い、相手が望む形で助けたからこそ、聞き耳頭巾をもらったんですよね。これと同じ行動を取れば良いのです。具体的には、動物が何を求めているか知ろうとし、行動を起こす。これを繰り返すことで、聞き耳頭巾がなくとも動物の考えていることが理解できるようになります。動物学者のムツゴロウさんが良い例です。
一番大切なのは、「知ろう」とする姿勢です。聞き耳頭巾に頼らずとも、これがある限り夢は夢で終わりません。
(コラムニスト ふじかわ陽子)2023-10